名古屋高等裁判所 昭和29年(う)1004号 判決
判決理由〔抄録〕
被告人は、日本通運株式会社笹島支店勤務の普通貨物自動車の運転手であるが、昭和二十八年一月十七日午後四時五十分頃、愛第六〇五二号普通貨物自動車を空車のまま運転して、名古屋市中川区運河通り三丁目六十二番地附近の三叉路に差しかかって本件事故を起したのであるが、右運河通りは、東西に走る道幅広い直線道路であって、道幅は、中央が約六米のコンクリート舗装、その左右に夫々七米か八米位の石畳舗装があり、更にその両側に舗道がある広い道路で、略々同じ位の道幅で南方明石通りに通ずる三叉路となって居り、東方から三叉路附近まで、ゆるい下り坂となっている所である。そして当時、右三叉路の西方数米の北側の石畳舗装に当る個所に、中部電力株式会社の電線工事があって、堀り返されたり土盛りされた部分があって、北側(左側)は通行できなかったのである。被告人は、夕方であるが天気もよかったのでまだ明るい右運河通りを貨物自動車を運転して時速約二十キロで東進していたが、被告人の運転する貨物自動車の前方に二台の貨物自動車が先行し、被告人の自動車とその直前の先行車との距離は、約五米乃至六米位であって、第一の先行車は、前記工事個所を避けるため、道路の中央右側(南方)に寄り、更に左側に寄って真直ぐ東進して行ったが、被告人の自動車の直前の先行車は何等の合図もしないで、右側(南方)の明石通りに方向を転換して行ったのである。その時、被告人は、先行車が右方へ廻るとき、その貨物自動車の車体に遮ぎられ、前方の見透しができなくなったのであるが、右先行車が右方に廻ってしまうと突如その自動車の蔭から本件被害者が自転車に乗って西進して来て、被告人が被害者を発見したときは、被告人の自動車と被害者との間は、僅か四米か五米位しかなく、ために被告人が急停車の措置を講じたが及ばず、被害者と被告人の自動車とは正面衝突し、被害者を自動車の前輪でしき、被害者に全治五月を要する程の重傷を負わしめたのである。而して被告人は、右三叉路に差しかかったとき、先行車のため見透しができなくなっても、時速をゆるめることもなく又警笛も鳴らさなかったのである。被害者もまた自転車に乗り下り坂を下り、被告人の自動車の先行車が南方に廻るとき、その直後に被告人の自動車が追従して来たことを気付かず速力をおとすことなく西進し続けていたことが認められる。右の事実関係は、原判決挙示の証拠だけでなく、原審が取り調べた証拠及び当審の検証の結果によるも覆すことのできないものであって、これと同趣旨に出でた原判決の事実認定は相当で、原判決には、判決に影響すること明らかな事実誤認はない。
よって右事実関係から被告人の過失の有無を検討する。一般に車馬又は軌道車が他の車馬又は軌道車に追従するときは、交通の安全のため必要な距離を保たなければならぬもので、(道路交通取締法施行令第二十二条参照)あるが、その必要な距離は、道路の状況、交通の状況によって具体的に判断すべきものであって、本件においては、道路は幅が広いが、左側(北方)には工事中の個所があり、右側(南方)は三叉路となっていたので、被告人としては、先行車が何時方向を転換するか予測しがたく、又先行車が右側(南方)に廻れば、その車体によって、前方の見透しが十分にできなくなる状況になることを注意し、速力をおとし、先行車との距離は十米以上に保ち、警笛を鳴らす等の措置に出でなければならなかったのに、時速約二十キロのまま進行し、先行車との距離を五米位しか保たないで、警笛も鳴らさず、漫然東進したため、先行車の蔭から本件被害者が現れたときには、時既におそく衝突するにいたったのであるから、被告人としては、十分の注意義務を尽していなかったものと解すべきである。然し本件被害者もまた自転車に乗って下り坂を西進するに当り、相当の速力で、道路の中央に余りに寄り過ぎて居り、南方に廻って行った先行軍に後続の被告人の自動車に気が付かなかったのは、過失があるものと謂わねばならない。